X(旧Twitter)広告は、リアルタイムで起きている会話に直接参加できる強力なマーケティングツールです。この記事では、X広告の出稿準備からキャンペーンの作成方法、費用構造、ターゲティング、効果測定まで、初心者でもわかるように網羅的に解説します。
私がX広告を運用する上で最も重視しているのは、プラットフォームの特性を理解することです。「今、起きていること」に関心を持つユーザーに対し、いかに的確なメッセージを届けるかが成功の鍵を握ります。このガイドを読めば、X広告の戦略的な活用法が明確になるはずです。
X広告(旧Twitter広告)を始める前の必須準備

X広告をスタートするには、いくつかの事前準備が必要です。特にアカウント認証は時間がかかるため、早めに着手しなければなりません。
広告出稿の前提条件|Xプレミアム登録
現在のX広告は、認証済みアカウントでなければ出稿できません。認証バッジ(青いチェックマーク)は、有料サブスクリプションの「Xプレミアム」または「プレミアムプラス」に登録することで取得できます。
この登録には、アカウントが過去30日以内にアクティブであることなどの条件が求められます。登録申請後、審査が完了するまでに時間がかかる場合があるため、広告出稿を計画しているなら、余裕を持ったスケジュールを組むことが不可欠です。
広告アカウントの開設と初期設定
認証が完了したら、X広告マネージャーにアクセスして広告アカウントを作成します。この初期設定は、後で変更できない重要な項目を含みます。
国とタイムゾーン設定の注意点
アカウント作成時に設定する「国/地域」と「タイムゾーン」は、特に注意が必要です。これらの設定は広告費の請求通貨やレポートの基準時間を決定し、一度設定すると変更できません。
私がもし設定を誤れば、レポート分析や配信スケジュールの管理が恒久的に複雑になってしまいます。日本のユーザーを対象とし、日本円で決済する場合は、必ず「日本」と「(GMT+09:00) 日本標準時 – 東京」を選択します。
プロフィール情報の整備
広告アカウントの承認には、紐づくXアカウントのプロフィール情報も審査対象です。ヘッダー画像、プロフィール画像、自己紹介文、ウェブサイトURLなどが完全に設定されていることを確認してください。
支払い方法の登録
広告費の支払いには、クレジットカードまたはデビットカードの登録が必要です。広告マネージャーの設定画面からカード情報を登録します。
広告キャンペーンを開始しない限り、費用が請求されることはありません。一方で、請求書払いは標準オプションではなく、月間の出稿額が非常に大きい企業が対象の、審査を必要とする特別な対応です。ほとんどの広告主はクレジットカード決済を前提とします。
X広告の出稿方法|キャンペーン作成のステップ

準備が整えば、いよいよ広告キャンペーンを作成します。X広告は「キャンペーン」「広告グループ」「広告」の3階層で構成されます。
キャンペーンの目的を選ぶ
広告作成で一番大切な決定は「キャンペーンの目的」を選ぶことです。この選択によって、Xのアルゴリズムが何を最適化するかが決まります。
主要な目的には以下のようなものがあります。
- リーチ|できるだけ多くの人に広告を表示し、認知度を高めます。
- ウェブサイトへの誘導数またはコンバージョン|自社サイトへのアクセスや商品購入、資料請求を促します。
- エンゲージメント数|いいね、リプライ、リポストを増やし、投稿への反応を高めます。
- フォロワー数|アカウントのフォロワーを増やし、長期的なファンを構築します。
- 動画の再生数|動画コンテンツの視聴回数を最大化します。
キャンペーンと広告グループの階層構造
広告の管理構造を理解することは、効果的な運用に直結します。
- キャンペーン|最上位の階層で、上記で選んだ「目的」を一つだけ設定します。
- 広告グループ|キャンペーンの下に位置し、具体的なターゲティング、予算、入札戦略、配信スケジュールを定義します。
- 広告|広告グループの下に位置し、実際の広告クリエイティブ(テキスト、画像、動画)を設定します。
この構造は、戦略的なテストを前提に設計されています。例えば、「ウェブサイトへの誘導数」キャンペーン内に、異なるターゲティングを設定した広告グループAとBを作成すれば、どちらのオーディエンスがより効果的かを比較検証できます。
予算の設定方法
広告費の管理には、柔軟な予算設定オプションが用意されています。
1日の予算と総予算
予算の設定方法は主に2種類です。
- 1日の予算(日予算)|1日あたりの最大支出額を決めます。継続的に広告を配信したい場合に適しています。
- 総予算|キャンペーン期間全体での最大支出額を決めます。期間が限定されたプロモーションで予算を厳密に管理したい場合に有効です。
キャンペーン予算の最適化(CBO)
これは、予算を広告グループごとではなく、キャンペーンレベルで設定する高度な機能です。CBOを有効にすると、Xのアルゴリズムがリアルタイムでパフォーマンスを判断し、最も成果の高い広告グループに自動で予算を配分します。
複数のオーディエンスをテストする際、手動での調整の手間を省き、全体の効率を最大化できるため、私は積極的に活用しています。
X広告の費用とコスト構造

X広告の費用は、リアルタイムのオークションによって決定されます。この仕組みを理解することが、コスト効率を高める第一歩です。
広告費が決まる仕組み|オークション
Xの広告枠は、ユーザーがタイムラインを読み込むたびに、瞬時にオークションが開催されて表示される広告が決まります。勝者は単に入札額が最も高い広告主ではありません。
勝敗は「広告スコア」で決まり、これは「品質スコア」と「入札額」の掛け算で算出されます。
広告スコア = 品質スコア × 入札額
品質スコアは、広告とユーザーの関連性、広告へのエンゲージメント(いいね等)、広告の鮮度といった要素で決まります。つまり、品質スコアが高ければ、低い入札額でも競合に勝利できるのです。
課金モデル別の費用相場
課金が発生するタイミング(課金方式)は、選んだキャンペーン目的によって異なります。以下に、主要な課金モデルと費用の目安をまとめます。
| 課金モデル(課金方式) | 関連するキャンペーン目的 | 課金イベント | 業界費用相場(目安) |
| クリック課金 (CPC) | ウェブサイトへの誘導数 | リンククリック | 1クリックあたり 24円~200円 |
| インプレッション課金 (CPM) | リーチ | 1,000回表示 | 1,000回表示あたり 400円~650円 |
| エンゲージメント課金 (CPE) | エンゲージメント数 | エンゲージメント発生 | 1エンゲージメントあたり 40円~100円 |
| 再生数課金 (CPV) | 動画の再生数 | 動画再生 | 1再生あたり 5円~20円 |
| フォロー課金 (CPF) | フォロワー数 | アカウントのフォロー | 1フォローあたり 40円~100円 |
入札戦略の種類と選び方
オークションへの参加方法を制御するために、いくつかの入札戦略が提供されています。
- 自動入札|設定した予算内で結果が最大になるよう、Xが自動で入札額を最適化します。初心者や運用の手間を最小限にしたい場合に推奨されます。
- 上限入札単価|1アクションあたりに支払う上限額を自分で指定します。コストが上限を超えることはありませんが、低すぎると広告が表示されないリスクがあります。
- 目標入札単価|1アクションあたりの「平均単価」を目標として設定します。システムは目標の平均単価に収束するように入札額を自動で調整します。
成果を左右する高精度ターゲティング

X広告の最大の強みは、その高精度なターゲティング機能です。これを使いこなせるかが、成果を大きく左右します。
基本的なターゲティング設定
広告配信の基礎となるターゲティングです。
- デモグラフィック|性別、年齢(13歳から54歳まで細かく区分)、使用言語などで絞り込めます。
- ジオグラフィック|国、都道府県、市区町村単位で配信エリアを指定できます。実店舗を持つビジネスには、特定の地点からの「半径指定ターゲティング」が非常に有効です。
ユーザーの行動・関心に基づくターゲティング
ユーザーのプラットフォーム上での行動に基づいた、より深いターゲティングです。
- キーワードターゲティング|ユーザーが最近検索したり、投稿したりしたキーワードを基にターゲティングします。「今」の関心事を捉える強力な手法です。
- 興味関心ターゲティング|スポーツ、ビジネスなど350以上のカテゴリーから、ユーザーの興味関心に基づいて絞り込みます。
- 会話ターゲティング|特定のトピック(例|「AI」「キャンプ」など)について会話しているユーザーをターゲットにします。
X独自の強力なターゲティング
私がX広告で最も強力だと感じるのが、「フォロワーが似ているアカウント」ターゲティングです。
「フォロワーが似ているアカウント」の活用法
これは、指定した特定のアカウント(@ハンドル)のフォロワーと、興味関心や行動が似ているユーザー層に広告を配信する機能です。
- 競合アカウントの指定|競合他社のフォロワーに似た層にアプローチします。
- メディアアカウントの指定|業界専門誌やニュースサイトのフォロワーに似た層をターゲットにし、質の高い潜在顧客にリーチします。
- インフルエンサーの指定|自社分野の有力者のフォロワーに似た層に配信し、関心の高い層に的確に届けます。
カスタムオーディエンスの活用
自社の既存データを活用して、さらに精密なターゲティングを行います。
- リターゲティング|自社のウェブサイトに訪問したユーザーや、保有する顧客のメールアドレスリストをアップロードして、それらのユーザーに再度広告を配信します。
- 除外設定|カスタムオーディエンスは、配信対象から「除外」するためにも重要です。例えば、新規顧客獲得キャンペーンから既存顧客を除外すれば、広告費の無駄遣いを防げます。
ユーザーの指を止める広告クリエイティブ
高速で情報が流れるXのタイムラインで、ユーザーの指を止めさせるにはクリエイティブが命です。
主要な広告フォーマットの種類
X広告にはいくつかのフォーマットがあります。
- プロモ広告|最も一般的で、タイムラインや検索結果に自然に表示される広告です。「プロモーション」というラベルが付きます。
- Amplify広告|提携する報道機関などの高品質な動画コンテンツの前に再生される動画広告(プレロール広告)です。
- テイクオーバー広告|タイムラインの最上部や「話題を検索」タブの最上部を24時間独占できる、最もインパクトの強いプレミアムな広告枠です。
広告クリエイティブの仕様一覧
広告のパフォーマンスを最大化するには、技術的な仕様を遵守することが絶対条件です。特に動画広告は「15秒以下」が強く推奨されています。
| フォーマット/要素 | 推奨解像度 (ピクセル) | アスペクト比 | 最大ファイルサイズ | 最大動画長 |
| 画像広告 | 1200 x 1200 | 1:1 | 5MB | – |
| 動画広告 | 1200 x 1200 (1:1) または 1920 x 1080 (16:9) | 1:1, 16:9 | 1GB | 2分20秒 (15秒以下推奨) |
| ウェブサイトカード | 800 x 418 (1.91:1) または 800 x 800 (1:1) | 1.91:1, 1:1 | 3MB (画像) | 2分20秒 (15秒以下推奨) |
| カルーセル広告 | 800 x 800 (1:1) または 800 x 418 (1.91:1) | 1:1, 1.91:1 | 20MB/枚 (画像) | 2分20秒 (15秒以下推奨) |
X広告クリエイティブ制作のコツ
Xのクリエイティブ戦略は「冒頭で心を掴む」ことに尽きます。ユーザーは高速でスクロールしており、従来の広告のような起承転結は機能しません。
私が動画を制作する際は、ブランドメッセージや最も伝えたいことを「最初の3秒以内」に提示することを徹底します。他のプラットフォームの素材を流用するのではなく、Xのフィードに最適化されたコンテンツを制作することが成功への近道です。
広告効果の測定と改善(最適化)
広告は配信して終わりではありません。データに基づいた継続的な改善こそが、成果を持続させる鍵です。
Xアナリティクスの使い方
Xアナリティクスは、広告パフォーマンスを分析するための公式ツールです。ただし、この機能へのアクセスは現在、Xプレミアム登録ユーザーに限定されています。
PCブラウザからXにログインし、メニューから「プレミアム」|「アナリティクス」と進むことでダッシュボードにアクセスできます。ここでは、アカウント全体のインプレッション数の変動や、個別のポストごとの詳細なパフォーマンスを確認できます。
必ずチェックすべき主要業績評価指標(KPI)
キャンペーンの目的(ゴール)を達成できたかを客観的に評価するため、適切なKPIを設定し、追跡します。
| KPI | 定義 | 戦略的重要性 |
| インプレッション数 | 広告が表示された総回数 | 広告のリーチ範囲、認知度を測る基本指標。 |
| エンゲージメント率 | エンゲージメント数 ÷ インプレッション数 | 広告の「質」と「関連性」を評価する最重要指標の一つ。 |
| ウェブサイトクリック率 (CTR) | クリック数 ÷ インプレッション数 | ウェブサイトへのトラフィック生成能力を測定する。 |
| コンバージョン数 (CV) | 購入や登録など、ウェブサイト上で達成された目標の数 | 広告の最終的なビジネス成果を測定する指標。 |
| 顧客獲得単価 (CPA) | 総広告費 ÷ コンバージョン数 | 広告費用の効率性、ROIに直結する重要な指標。 |
継続的に成果を出すためのPDCAサイクル
広告運用は、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回し続けるプロセスです。
- Plan(計画)|キャンペーンの目的とKPIを明確にし、ターゲットやクリエイティブの仮説を立てます。
- Do(実行)|計画に基づきキャンペーンを実施します。
- Check(評価)|Xアナリティクスでデータを収集・分析し、KPIの達成度や仮説の正否を評価します。
- Act(改善)|分析結果に基づき、データに裏付けられた改善策(例|低パフォーマンスの広告を停止、予算の再配分、新しいクリエイティブのテスト)を実行します。
このサイクルを粘り強く回すことが、運用を成功に導きます。
X広告の成功事例と戦略
理論だけでなく、実際の成功事例から学ぶことも重要です。
国内企業の成功事例から学ぶ
多くの国内企業がX広告を戦略的に活用しています。
- ローソン|フォロワーとの親しみやすいコミュニケーションとタイムリーな情報発信で、高いエンゲージメントを維持しています。
- シャープ|ユーモアと専門性を両立させた「中の人」運用で、企業アカウントの新しい形を示し、強固なファンコミュニティを築いています。
- Bloomberg|「サイト訪問数最適化」キャンペーンを活用し、自社サイトへのトラフィックと訪問者の滞在時間を増加させることに成功しました。
- ロッテ|新規アカウント開設キャンペーンをX広告で増幅させ、わずか8日間でフォロワー数を劇的に増加させました。
X広告で成功するための戦略的ポイント
これらの事例と本ガイドの分析から、成功のための戦略的ポイントを抽出します。
- 計画はプロアクティブに|アカウント認証には数週間かかります。この準備期間を織り込んで計画を立てます。
- 目的と指標を一致させる|キャンペーンの目的と、それを測定するKPIを明確に一致させます。
- 高精度なターゲティングを徹底する|特に「フォロワーが似ているアカウント」を活用し、質の高い潜在顧客を発見します。
- フィードのためのクリエイティブを制作する|最初の3秒で勝負が決まります。Xに特化したコンテンツを用意します。
- テスト、測定、反復を信条とする|PDCAサイクルを回し続け、データに基づいて常に改善を行います。
まとめ

X広告(旧Twitter広告)は、適切な準備と戦略、そして継続的な最適化を行えば、ビジネスの成長に大きく貢献する強力なプラットフォームです。出稿にはXプレミアムへの登録が必須となり、準備に時間がかかる点には注意が必要です。
キャンペーンの目的を明確にし、X独自の高精度なターゲティングを駆使することが成功の第一歩です。この記事で解説した費用の仕組み、クリエイティブの仕様、効果測定の方法を参考に、ぜひX広告の運用に挑戦してみてください。

